藤原正彦著「若き数学者のアメリカ」新潮社 - 書評あれこれ~

あらすじ 藤原正彦著「若き数学者のアメリカ」新潮社 読書感想文

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解説あらすじ・読書感想文・解説 若き数学者のアメリカ第8章 コロラドの数学者達
(要約)
 筆者のコロラド大学の同僚カール・ノートンが、学生を大量に落第させた事を理由に大学を解雇させられた。カール本人は研究者としては優秀な数学者なのだが、教育・指導能力に問題があるとの見解を示すグループ(教育や大学の運営も研究と同時に重要であると考えるグループ)と、研究実績から教授の能力を評価すべきであると主張するグループとの間で彼に対する評価が真っ二つに分かれた。そして結果として教育、運営も同様に重要と考えるグループの意見が通って、カールは大学を解雇させられてしまう。

 異なる領域の仕事に対する適切な評価を下すことの難しさと、どのような基準を持って異なる仕事に対する評価をなるべきかということについて、問題提起がなされています。 

 研究至上主義のグループと教育や運営も研究と同等に重要だと考えるグループのどちらの考えが望ましいかを考えるのだけでも難しい。それだけでなく、研究至上主義であれば研究実績の客観的評価を、教育・運営派であれば教育効果の評価のように各々の実績を評価することだけでも非常に困難である。

《微分幾何学者が確率論の論文を前にして、あるいは有限群論の専門家が偏微分方程式の論文を前にして感ずることは、その数学者が古代ギリシャ語、又はサンスクリット語で書かれた詩文を前にした時と大差はないであろう。従って、分野の異なる人々を比較評価するのはすこぶる難かしい。》

 現在、専門領域に細分化されているため、同じ数学の論文と言えども異なる分野になってしまうと、まるで全く異なる言語で書かれているかのごとく理解不能になってしまう。
《そして公平な評価に対する、より本質的な障害は、論文の価値判断というものにはどうしても評価する人の思想、哲学、趣味等の主観が入ってしまうということである。例えば抽象的な理論の好きな人は、具体的な数学を「近視眼的で統一的な美に欠けている」と見るだろうし、逆の場合は、抽象数学を「空虚な論理的遊戯にすぎない」と心中で苦々しく思うであろう。》

 第三者が論文を評価する事が困難ならば、同じ専門領域を専攻する人間が評価すればいいという意見もあるだろうがこれもまた、困難を擁する。というのは、同じ専門領域であっても、やはり主観が働いてしまい、好意的すぎたり、逆に批判的過ぎたりしてしまうため公正な意見を得ることはしばしば困難なようである。

《しかし一方、教育における功労の評価はいっそう至難の業であろう。熱情を傾けて、誠心誠意教えているか、あるいは単に義務感からほんの片手間仕事として教えているのかを実証することは難題だし、ましてそれを数字に表わして順序づけるなどということはほとんど不可能に近い。そこで一つの試案として、学生による教授評価(Teaching Evaluation)というものが生まれた。(中略)この「教授評価」を一覧すると自分の教育法に関する弱点が手に取るように分かるので、改善の足がかりとするには大変に重宝するのだが、教育における功労の尺度として、つまり給与決定等の際の主要資料として使用するには少し問題がある。というのは、いくら熱心にかつ良心的に教えても、どうしても学生に好かれない人間がいるし、学生の判断にあまりにも依存すると、試験を易しくしたり、評点を甘くしたりとかで学生のご機嫌取りに走る者の出て来る恐れがあるからだ。》

 教育において必ずしも熱心に愛情を注いで指導したからといって、学生の評価を得られるとは限らない。むしろ、指導していた当時は煙たく思われていたが、年数が経って始めて指導された事の重要さ、有難みが分かるということも決して珍しいことではない。指導を受ける側がその時満足しているからといって、本質的に指導のあるべき姿、理想的な姿かは決して同じものになるわけではない。

《他人の働きに嘴を入れんと欲せば、試みに身をその働きの地位に置きて身自ら顧まざるべからず。或いは職業の全く相異なるものあらば、よくその働きの難易軽重を計り、異類の仕事にてもただ働きと働きとをもって自他の比較をなさば大なる誤りなかるべし。》

 他の人の仕事に口をいれたいならば、「自身の身をその人の身になって働きの困難さ、重大さを理解しなさい。」と言っているが、実際にはなかなかそうもいかないのが現状のようです。たしかに上記の文章にも「大なる誤りなかるべし」とあるように、完全にその人の身になることは出来ないが、そうすることで大きな誤解、誤りは避けることが出来るだろうと説いています。そうはいっても人間、他人の身の立場になって客観的な評価を下すということはなかなか難しいのだと思いました。

藤原正彦著「若き数学者のアメリカ」新潮社
福沢諭吉著「学問のすゝめ」岩波文庫
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若き数学者のアメリカ第8章 コロラドの数学者達(要約) 筆者のコロラド大学の同僚カール・ノートンが、学生を大量に落第させた事を理由に大学を解雇させられた。カール本人は研...

2012-05-24 20:09 from まとめwoネタ速neo

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