「漱石の文学」読書感想文 - 書評あれこれ~

あらすじ 「漱石の文学」読書感想文 読書感想文

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解説あらすじ・読書感想文・解説 夏目漱石著「草枕」新潮文庫の中に、
 「漱石の文学」というタイトルの漱石の著書についての解説が載っていたのですが、
 その内容が印象深かったので感想を書きました。

《ところで、それなら漱石を現代に生かしているもう一つの要素とはいったいなんだろうか?
 それはおそらく、彼が「近代」の影の部分を最初に洞察した作家だったという事実である。
 しかもこの洞察は、彼が「近代」の落伍者であるどころか、
 官命によって英国に留学したエリートであったということのために、
 却って無限の重味をもってわれわれに迫って来る。》P208

 《彼が「近代」の影の部分を最初に洞察》というのは、非常に的を得ていると思いました。
 「道草」では、金銭問題と夫婦の仲に悩む健三を、
 「それから」の代助は、自らを高等遊民と称して親のすねをかじって、
 高級な書物を読みふける生活を送っている、現代で言うところの「ニート」そのままです。
 「門」の宗助は過去に親友安井の妻、お米を自分のものにした罪から、社会の罪人としてひっそりとした生活を強いられている。
 社会の罪人として暮らす二人の姿は、村八分を連想させます。

《彼は文壇という別世界にではなく、いつも世間の習俗の只中に身を置いて仕事をしていた。
 武者小路実篤の言葉を借りれば、彼は「国民の教師」とさえ看做されかけていた。
 このような人間がなおかつ作家であり得たというところに、
 漱石という人間のユニークさが潜んでいるといってもよい。》P208

 漱石の作品は決して、文壇という世間の習浴から切り離された世界から、
 世の中を俯瞰して書かれたのではなく、むしろ漱石自信の体験を基にして描かれている。
 なぜなら漱石自信が留学先のロンドンで英文学を学ぶことに違和感を覚え、
 ロンドンを去ることになった経験があるからです。

 《このことは、逆にいえば、漱石がいつも冷静な科学者のようにではなく、
 「尋常なる」生活者のように生きかつ書いたということを意味している。》P208

 「こころ」を読むとこのことがよく分かるような気がします。
 
《私がこの牢屋の中に疑っとしている事がどうしても出来なくなった時、
 又その牢屋をどうしても突き破る事が出来なくなった時、
 必竟私にとって一番楽な努力で遂行出来るものは自殺より外にないと私は感ずるようになったのです。
 貴方は何故と云って眼を睜るかも知れませんが、何時も私の心を握り締めに来るその不思議な恐ろしい力は、
 私の活動をあらゆる方面で食い留めながら、死の道だけを自由に私のために開けて置くのです。
 動かずにいればともかくも、少しでも動く以上は、
 その道を歩いて進まなければ私には進みようがなくなったのです。》P264

夏目漱石著「こころ」新潮文庫

 親友Kを裏切って恋人を得た"先生"は、
 その罪の意識から、自殺より外にその罪の意識から逃れる術を見出せず自殺を図る。
 その理由を"私"に告白するが、その告白の内容は正に、
 「腹の中から搾り出した」という印象を受けます。
 「生活者のように生きかつ書いた」というのがよく分かる気がします。

 
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