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「道草」読書感想文 - 書評あれこれ~

あらすじ 「道草」読書感想文 読書感想文

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解説あらすじ・読書感想文・解説
夏目漱石

道草 (新潮文庫)


道草

夏目漱石著「道草」新潮文庫



海外留学から帰ってきた大学教師健三は、金銭問題で養父、妻の父等、
様々な人が決して余裕があるとは言えない、健三の家に金を借りにまとわりつく。
長い時間をかけて一大著作に携わろうとする健三の苦悩を通じて、
現代知識人の苦悩を描いた作品で、漱石自信の自伝的小説とも言われています。

《「月々の勘定はちゃんとして己に見せなければ不可いぜ」
 細君は厭な顔をした。彼女自身から云えば、自分程忠実な経済家は何処にもいない気なのである。
 「ええ」
 彼女の返事はこれ限であった。そうして月末が来ても、会計簿はついに健三の手に渡らなかった。
 健三も機嫌の好い時はそれを黙認した。けれども悪い時は意地になってわざと見せろと逼る事があった。
 その癖見せられるとごちゃごちゃして解からなかった。》P52

 「ええ」という妻の返事から冷め切った夫婦の仲がよくわかります。
 意地になって帳面を見ようとする健三と、
 健三の内面を見透かしている妻、
 「ええ」という言葉のなかに、「どうせみても解からないのでしょ」
 と考えている妻の心理がうかがえます。
 
《兄は過去の人であった。華美な前途はもう彼の前に横わっていなかった。
 何かに付けて後ろを振り返り勝な彼と対峙している健三は、
 自分の進んで行くべき生活の方向から逆に引き戻されるような気がした。
 「淋しいな」
 健三は兄の道伴になるには余りに未来の希望を多く持ち過ぎた。
 その癖現在の彼も可なりに淋しいものに違なかった。
 その現在から順に推した未来の、当然淋しかるべき事も彼にはよく解っていた。》

 2度妻に先立たれ、子供にも先立たれ、
 その過去を振り返り勝な健三の兄と異なり、
 一大著作に取り掛かるという未来の希望を持った健三は、
 過去を振り返るだけに終始する事に徹する事は出来なかった。
 かといって、現在もそれから推論される未来も、
 決して明るいものではないことは容易に推測された。
 過去に終始することも出来ず、
 未来の希望に邁進する事も出来ない健三の苦悩が伝わります。

《健三の心を不愉快な過去に捲き込む端緒になった島田は、
 それから五六日程して、ついに又彼の座敷にあらわれた。
 その時健三の眼に映じたこの老人は正しく過去の幽霊であった。
 また現在の人間でもあった。それから薄暗い未来の影にも相違なかった。
 「何処までこの影が己の身体に付いて回るだろう」》

 十五、六年前に縁が切れたはずの養父島田は、
 健三にとってはまさに過去の亡霊でした。
 「いつまでもつきまとい、金をせびりに来るのだろうか」
 という心理が
 「何処までこの影が己の身体に付いて回るだろう」
 という文章から伝わってきます。

 金銭問題で健三のまわりをまとわりつく親戚達。
 彼の周囲にまとわりつく、過去の亡霊達が、
 健三の薄暗い未来を想起させる発端となっています。
 
 
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