シェイクスピア著「タイタス・アントロニカス」読書感想文 - 書評あれこれ~

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解説あらすじ・読書感想文・解説

シェイクスピア全集 12 タイタス・アンドロニカス (ちくま文庫)

シェイクスピア

タイタス・アントロニカス

シェイクスピア著 松岡和子訳「タイタス・アンドロニカス」ちくま文庫

読書感想文

血で血を洗う復讐の惨劇!
タイタスがタモーラの長男を生贄にしたことをきっかけに、
復讐そして、それに対しての応酬の構図が次々と繰り広げられていく。
その復讐の凄惨さも両腕と舌を切り取るから、
最後には骨で粉を轢き、血でそれをこねて、人の肉を入れてパイを作ると、
その残虐さ凄惨さは計り知れない。
しかし、シェイクスピアの作品の凄い所は、
それを単なる凄惨なだけの印象だけを与えるわけでは無い所が凄い。
藤原正彦著「遥かなるケンブリッジ」新潮文庫で、

《彼の作品には、悲劇であれ喜劇であれ、涙と笑いが、
 厳しさと優しさが、明と暗が同居している。》

と述べているように、凄惨さ残虐さのなかにも、
それだけが印象に残るのではなく、
またその残虐さも単なる狂気という印象だけではなく、
ウィットに富んだ場面が数多く見られます。

例えば、タモーラの二人の息子がタイタスの娘ラヴィニアを陵辱し、
口封じのために両手と舌を切り落とした場面。

ディミートリアス
《さてと、その舌でしゃべれるなら、言いつけてこい、
 誰に舌を切られ、誰に犯されたか。》

カイロン
《思ってることを書いて、ばらしちまえ、
 その二本の切り株で字が書けるなら。》

ディミートリアス
《見ろ、腕ふりまわして訳わかんないことかいてるぞ。》

カイロン
《家に帰って、きれいな水を持ってこいと言って、手を洗うんだな。》

ディミートリアス
《言いたくても舌はなく、洗いたくても手はない、
 だから、その辺を黙ってほっつき歩かせておこうや。》

カイロン
《これが俺だったら首くくるっきゃないな。》

ディミートリアス
《その縄を綯う手があればな。》

「これが俺だったら首くくるっきゃないな。」
「その縄を綯う手があればな。」
という箇所に笑いの要素が含まれている。
内容は非常に凄惨で残虐性に富んでいるはずなのだが、
何故か残虐性よりも先に笑い、明の要素が先に立ってしまいます。

更にその後、森の中でさまようラヴィニアを発見するマーカスの文章。

《言ってくれラヴィニア、どこのどいつが冷酷非情な手が
 お前の二本の枝を、あのかわいい飾りをたたき切り、
 お前のからだを裸木にしてしまったのだ、
 帝王ですら、蔭をなすあの枝に抱かれて眠りたいと願い、
 わずかでもお前の愛が得られるなら、それに勝る幸せはないと
 思ったものだ。どうして何も言わない?
 (中略)
 間違いない、フィロメラを犯したテレウスのような悪党が
 お前を手篭めにし、露見をおそれてお前の舌を切ったのだな。
 ああ、そうやって顔をそむけるのは恥ずかしいからか、
 三つの口から水を噴き上げる噴水ほど
 多量の血を失っていながら、お前の頬は赤く染まっている、まるで
 雲が近づくとぱっと顔を赤らめる太陽のように。》P81,82

 手篭めにした犯人をラヴィニア自身に問い詰めるマーカスの文章。
 犯人に対する憎悪と、
 そのような姿になってしまったラヴィニアに対しての、
 悲哀の感情が伝わってくる。
 しかし、憎悪と悲哀に満ちていながらも、
 どこかウィットに富んでいるようなところが伺える。

最後にタモーラの二人の息子を殺害しその骨と血、肉でパイをこねあげる事を、
殺害しようとする息子達に伝える際のタイタスの文章。

《聞け、悪党ども、俺は貴様らの骨を挽いて粉にし、
 貴様らの血でこねあげて生地を作る、
 その生地でパイの皮をこしらえ、
 貴様らの恥知らずな生首を中味にして二つのパイを焼き上げ、
 あの淫乱女に、貴様らのうすぎたないおふくろに食わせてやる、
 大地のように自分の生んだものを自分で飲み込むというわけだ。
 これがあの女を招待した饗宴だ、これがあの女にたっぷり召し上がっていただくご馳走だ。
 貴様らは俺の娘をフィロメラよりひどい目に遭わせた、
 だから俺はその姉プロクネの復讐よりひどいことをしてやるのだ。》P177

 人の骨で粉を轢き、その血で水代わりにパイをこねあげ、
 更には生首を中身にし、それを食べさせるという!
 血で血を洗う惨劇のクライマックスの光景。
 想像するだけでも身悶えしてしまいそうな光景してしまいそうな光景です。
 しかし、残虐性に満ち溢れた文章の中にも、
 何故か程よい喜劇のような明るさを感じてしまうのが不思議でした。

 思わず、目を覆いたくなるような惨劇の数々。
 復讐がまた別の復讐を誘っていく憎悪の数々。
 しかし、その憎悪の数々の中にもまるで演じているかの如く、
 復讐の惨劇の中に時折見せるウィットに富んだ感覚が魅力的な作品でした。






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