「罪と罰」ラスコーリニコフとポルフィーリィーの息詰まる心理戦 - 書評あれこれ~

あらすじ 「罪と罰」ラスコーリニコフとポルフィーリィーの息詰まる心理戦 読書感想文

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解説あらすじ・読書感想文・解説
ドストエフスキー

罪と罰〈下〉 (新潮文庫)


罪と罰

ドストエフスキー著 工藤精一郎訳 「罪と罰」下 新潮文庫

《「あなたは、たしか、昨日ぼくに言いましたね、
  ぼくとあの……ころされた老婆の関係について……正式に……尋ねたいとか……」
とラスコーリニコフは改めて言いだした。
 《チエッ、なんだっておれはたしかなんて言葉をはさんだのだ?》という考えが彼の頭をかすめた。
 《だが、このたしかをはさんだのを、なぜおれはこんなにきにするのだ?》
 というもうひとつの考えが、すぐにそのあとから稲妻をのようにひらめいた。
  そして不意に彼は、自分の猜疑心が、ポルフィーリィーにちょっと会って、一言二言ことばをかわし、
一、二度視線をまじえただけで、一瞬のうちに早くもおそるべき大きさに成長してしまったことを感じた……  これはおそろしく危険だ。
  神経が苛立ち、興奮がつよまるばかりだ。《まずい!……まずい……また口をすべらせるぞ》
 「ああ、そうでしたね!でもご心配なく!急ぐことはありません、時間は十分にあります」
 とポルフィーリィーはテーブルのそばを行き来しながら、呟くように言った。(中略)
 「およそ検事と名のつくものには、はじめは遠い些細なことか、重要でも、まるで無関係なことからはじめて、
 いわば、容疑者を元気づけ、というよりは油断させ、注意をそらしておいて、不意に、
 まったく思いがけぬところで、何かぜったいのきめ手となる危険な質問をいきなりあびせかけて、
 相手の度肝をぬくという、
 操作の法則というか方法というか、そういうものがあるそうですね、そうですか?
 そのことは、あらゆる法則や判例にいままでちゃんと述べてあるそうじゃありませんか?
 「それはまあ、そうですが……どうしたんです、あなたはどうやら、わたしが官舎の話をしたのを、
 その……え?」
 そう言うと、ポルフィーリィー・ペトローヴィチは目をそばめて、ぱちっと目配せして、
 間のびした顔になったかと思うと、とつぜんけたたましく笑いだした。
 彼は全身をふるわせながら大きくゆすぶり、まっすぐにラスコーリニコフの目をみつめたまま、笑いつづけた。
 ラスコーリニコフもいくらか無理に、作り笑いをしようとした。》P122、P124

 書類を渡すために陪審官ポルフィーリィーの元を訪れたラスコーリニコフ。
 「殺された老婆との関係について、正式に尋ねたい」という話を事前に受けていたラスコーリニコフは、
 ポルフィーリィーが、自分が老婆を殺害した事を疑っているのではないかと勘ぐる。
 自分の罪がばれるのではないか、また口をすべらせているのではないかと、警戒し、狼狽するラスコーリニコフ。
 一方ポルフィーリィーの方は何事もないかのように、何食わぬ顔をしている。
 文中に「はじめは遠い些細なことか、重要でも、まるで無関係なことからはじめて、
 いわば、容疑者を元気づけ、というよりは油断させ、注意をそらしておいて、
 不意に、まったく思いがけぬところで、何かぜったいのきめ手となる危険な質問をいきなりあびせかけて、
 相手の度肝をぬくという、操作の法則というか方法」があると述べられていますが、
 ラスコーリニコフハまさしくその術中にはまりつつあります。
 ラスコーリニコフの老婆殺害を疑いつつもそれを正面から追求するのではなく、
 徐々に外堀を外堀を埋めていくかのごとく歩を進めて、彼を追い詰めていくポルフィーリィーと、
 その詰問を何とかやり過ごそうとするも奥底にある焦りを時折見せてしまう二人の、
 息詰まる緊迫した心理戦が見物でした。
 
 
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