「ファウスト」ファウストが辿りついた人生最高の瞬間 - 書評あれこれ~

あらすじ 「ファウスト」ファウストが辿りついた人生最高の瞬間 読書感想文

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解説あらすじ・読書感想文・解説
ゲーテ

ファウスト〈第二部〉 (岩波文庫)


ファウスト

ゲーテ著 相良守峯訳 「ファウスト」第二部 岩波文庫

《あの山脈に沿うて沼沢地があり、その毒きが、

 これまで開拓してきた場所をすっかり害なっている。

 あの腐った水溜まりにはけ口を作るという

 最後の仕事が同時に最高の開拓事業なのだ。

 おれは数百万人の人々に、安全とはいえなくとも、

 働いて自由に住める土地をひらいてやりたいのだ。
 
 野は緑に蔽われ、肥えている、人々も家畜を

 すぐさま新開の土地に気持よく

 大胆で勤勉な人民が盛り上げた

 がっちりした丘のすぐそばに移住する。

 外側では潮が岸壁まで荒れ狂おうとも、

 内部のこの地は楽園のような国なのだ。

 そして潮が強引に進入しようとて噛みついても、

 共同の精神によって、穴を塞ごうと人が駆け集まる。

 そうだ、おれはこの精神に一身をささげる。

 知恵の最後の結論はこういうことになる、

 自由も生活も、日毎にこれを闘いとってこそ、

 これを享受するに値する人間といえるのだ、と。

 従って、ここでは子供も大人も、

 危険にとりまかれながら、有為な年月を送るのだ。

 おれもそのような群衆をながめ、

 自由な土地に自由な民と共に住みたい。

 そうなったら、瞬間に向ってこう呼びかけてもよかろう。

 留まれ、お前はいかにも美しいと。

 この世におけるおれの生涯の痕跡は、

 幾千代を経ても滅びはすまい。-

 このような高い幸福を予感しながら、

 おれはいま最高の瞬間を味わうのだ。》P461,462

 "ファウスト"のクライマックスシーンの文章。
 ファウストは自分を己の中に取り込もうとする憂愁の謳い文句に応じないことによって盲目にさせられる。
 悪魔メフィーストフェレスはファウストとの、
 「この世では自分が奴隷のように使えるが、あの世では逆にファウストが奴隷のようにメフィーストフェレスに仕える、
 "ある瞬間に対して、留まれ、お前はいかにも美しい"と言ったならば悪魔に魂を売ってもいい」
 という契約を遂行するために自分の手下にファウストの墓穴を掘らせる。
 この墓穴を掘る音を人民が働いて土地を採掘する音と勘違いしたファウストは、
 「留まれ、お前はいかにも美しい」と追い求めていた人生最高の瞬間を手にした時に使うと決めていた言葉を発して絶命する。

 あらゆる学問を学んだものの、人間の有限性に絶望したファウスト。
 ファウストが"生きることへの充実感"を得た瞬間は、
 自らの自由や生活を勝ち取ろうとするために、土地を開拓してそれを得ようとする住民を見届けながら、
 彼らと一緒に暮らすことだった。
 
 人生のあらゆる快楽を追い求めたファウストが最後に辿りついた人生最高の瞬間とは、
 住民と共に自由の土地で思慮深く生きていくことだった。
 あらゆる快楽を経験し世の中を駆け抜けてきたからこそ辿りついたことで、
 「留まれ、お前はいかにも美しい」
 という短い言葉の中に、
 「長い時間を経てやっと答に辿りついた」
 ことへのファウストのこの上ない幸福感と満足感が凝縮されているように思えました。
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