白痴 - 書評あれこれ~

あらすじ 白痴 読書感想文

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解説あらすじ・読書感想文・解説

白痴 (新潮文庫)



 坂口安吾「白痴」新潮文庫を読みました。主人公伊沢の世の中を斜に構えた態度で見るような態度が印象的な作品でした。

《俺は何を怖れているのだろうか。まるであの二百円の悪霊がー俺は今この女によってその悪霊と絶縁しようとしているのに、そのくせ矢張り悪霊の咒文によって縛りつけられているのではないか。怖れているのはただ世間の見栄だけだ。その世間とはアパートの淫売婦だの妾だの妊娠した挺身隊だの家鴨のような鼻にかかった声をだして喚いているオカミサン達の行列会議だけのことだ。》P57

 自嘲的な態度を取る伊沢にとって、世の中の見栄や羞恥心に対する執着は無い様に思われる。そんな伊沢にとってこの世の中に生きるものは、皆みだら、あるいはふしだらなものに見えるのだと思いました。

《三月十日の大空襲の焼跡もまだ吹きあげる煙をくぐって伊沢は当もなく歩いていた。人間が焼鳥と同じようにあっちこっちに死んでいる。ひとかたまりに死んでいる。まったく焼鳥と同じことだ。怖くもなければ、汚くもない。犬と並んで同じように焼かれている死体もあるが、それは全く犬死で、然しそこにはその犬死の悲痛さも感慨すらも有りはしない。人間が犬の如くに死んでいるのではなく、犬と、そして、それと同じような何物かがちょうど一皿の焼鳥のように盛られ並べられているだけだった。犬でもなく、もとより人間ですらもない。》P63

 人間を焼鳥と同じことだと言い切るところが印象に残る。伊沢の世の中を自嘲的に観る物の見方がよく分かる文章。

《「死ぬ時は、こうして、二人一緒だよ。怖れるな。そして、俺から離れるな。火も爆弾も忘れて、おい俺たち二人の一生の道はな、いつもこの道なのだよ。この道をただまっすぐ見つめて、俺の肩にすがりつくがいい。分ったね」女はごくんと頷いた。》P70

 今までの伊澤の言動とはうって変って、白痴への愛情と生きる事への執着心が伝わる文章。空襲という極限まで死が近づいている状況の中で伊沢の生きる事に対する執着心が搾り出されている。

 人間を豚や焼きとり、気違いと言うように、投げやりな態度で他人にもまた自分に対しても接する伊沢の態度がとても印象的でした。
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