羅生門 - 書評あれこれ~

あらすじ 羅生門 読書感想文

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解説あらすじ・読書感想文・解説

羅生門・鼻 (新潮文庫)

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芥川龍之介「羅生門」新潮文庫

 主人から暇を言い渡された下人は羅生門の下であまやどりをしていた。下人は生きてためにはもはや盗人になるしかない、それが出来なければ飢え死にするしかないという状況の中でどちらになる勇気も出ずに悶悶とした時間を過ごしていた。下人は羅生門の中で鬘にするために死人の髪を抜いて、飢えをしのぐための金を得ているという老婆に会う。老婆の言い分は、「自分は、今にも飢え死にしそうな身分である。それならば、追剥ぎをしても仕方無いだろう」という言い分である。
 老婆の言い分を聞いた下人は、「それならば自分も餓死をしそうな状態なので、引剥をしても仕方無い」と正当化して、老婆から着物を剥ぎ取ってしまう。

《そうして、その死骸は皆、それが、嘗、生きていた人間だと云う事実さえ疑われる程、土を捏ねて作った人形のように、口を開いたり手を延ばしたりして、ごろごろ床の上にころがっていた。しかも肩とか胸とかの高くなっている部分に、ぼんやりした火の光をうけて、低くなっている部分の影を一層暗くしながら、永久に唖の如く黙っていた。》P11

 荒れはてた羅生門の中に転がっている死体の姿がはっきりと想像出来る。特に「高くなっている部分が光を受け、低い部分をより一層暗くする」という文章が、死体がまるでゴミのように転がっている光景の不気味さをより一層引き立てている。

《雨は、羅生門をつつんで、遠くから、ざあっと云う音をあつめて来る。夕闇は次第に空を低くして、見上げると、門の屋根が、斜につき出した甍の先に、重たくうす暗い雲を支えている。》P9

 羅生門を包む夕闇と雨雲がより寂れた感じを演出している。「重たくうす暗い雲を支えている」という箇所が空のどんよりとした空気にリアリティを与えている。 

《すると、老婆は、見開いていた眼を、一層大きくして、じっとその下人の顔を見守った。眶の赤くなった、肉食鳥のような、鋭い眼で見たのである。それから、皺で、殆、鼻と一つになった唇を、何か物でも噛んでいるように動かした。細い喉で、尖った喉仏の動いているのが見える。その時、その喉から、鴉の啼くような声が、喘ぎ喘ぎ、下人の耳へ伝わって来た。
「この髪を抜いてな、この髪を抜いてな、鬘にしようと思うたのじゃ」》P14

 老婆が「髪を抜いて鬘にしようとしていた」という短い言葉を、全身の力を振り絞って発した光景が伝わってくる。「尖った喉仏の動いているのが見える」という文章が、微妙な身体の震え、鼓動を描き出すことで、老婆の力の振り絞り具合を表わしている。

 文章だけなのに、雨雲や羅生門の中に転がっている死体をはっきりと想像出来る描写のテクニックが印象的な作品でした。細かい描写を演出するための、細かな仕込みがリアリティを感じさせる作品だったと思います。
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