夢十夜(第七夜) - 書評あれこれ~

あらすじ 夢十夜(第七夜) 読書感想文

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解説あらすじ・読書感想文・解説

文鳥・夢十夜 (新潮文庫)


夏目漱石「文鳥・夢十夜」新潮文庫 
 主人公は気が付くと大きな船に乗っていた。その船はどこへ行くのか、何時陸へ上がるのかも分からない。唯々、黒い煙を吐いて先に進むばかりである。彼は心細さと不安にかられて船から飛び降りて自殺する事を決心する。そして、ある晩人の居ない時に海に向かって飛び込んだ。ところが自分の足が船を離れて飛び込んだ瞬間に彼は後悔の念に苛まれる。しかし、時既に遅く彼は後悔と恐怖の念にかられながら、黒い海の中に落ちていく。船は無情にも彼を置いて通り過ぎていく。

《自分は大変心細くなった。何時陸へ上がれる事か分からない。そうして何処へ行くのだか知れない。只黒い煙を吐いて波を切って行く事だけは慥である。》P41

 「只黒い煙を吐いて波を切って行く事だけは慥である」という文章から、「行く先も分からず唯唯進んで行く様子」を喚起している。「黒い煙」という言葉が「先の見えない闇」というイメージを喚起して、主人公の先の見えない不安を抱えている姿を明確に描写している。

《自分は益つまらなくなった。とうとう死ぬ事に決心した。それである晩、あたりに人の居ない時分、思い切って海の中へ飛び込んだ。ところがー自分の足が甲板を離れて、船と縁が切れたその刹那に、急に命が惜しくなった。心の底からよせばよかったと思った。けれども、もう遅い。自分は厭でも海の中へ這入らなければならない。只大変高く出来ていた船と見えて、身体は船を鼻れたけれども、足は容易に水に着かない。しかし捕まえるものがないから、次第々々に水に近附いて来る。いくら足を縮めても近附いてい来る。水の色は黒かった。》P44

 最後の水の色は黒かったという箇所が「漆黒の闇に引き込まれる」というイメージを連想させることで、暗闇の中に引き込まれる事への恐怖と後悔の感情を読むものに喚起している。中盤で「心の底からよせばよかった」「けれども、もう遅い」と言う様に文章が一節ずつ細切れになっていることで、船から飛び降りて海に落下している最中の主人公がリアルタイムで語り掛けているような印象を受けました。

《そのうち船は例の通り黒い煙を吐いて、通り過ぎてしまった。自分は何処へ行くんだか判らない船でも、やっぱり乗っている方がよかったと始めて悟りながら、しかもその

悟りを利用する事が出来ずに、無限の後悔と恐怖とを抱いて黒い波の方へ落ちていった。》P44

「無限の後悔と恐怖」と云う文章が印象的でした。その後に続く「黒い波」と云う言葉が、先がただただ真っ暗な暗闇しか見えずに延々と続く「後悔と恐怖」のイメージを喚起させる言葉だと思いました。

 文中で「黒い煙」「黒い波」「水の色は黒かった」等、「黒」という言葉がよく使われているのが気になった。「いつ陸へ上がれるか分からない」「何処へ行くのかも分からない」という、「先が見えない不安」という感情を「黒」という色のイメージを使って喚起させている。「青い海」のような表現だったらどうなっただろうか?「黒」という色が連想させる「漆黒の闇」というイメージは「先が見えない不安、恐怖」をイメージするのに非常に効果的に使われているなとこの作品を読んで感じました。

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