読みました「ルボ 雇用劣化不況」~雇用と共に劣化する付加価値 - 書評あれこれ~

あらすじ 読みました「ルボ 雇用劣化不況」~雇用と共に劣化する付加価値 読書感想文

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解説あらすじ・読書感想文・解説  竹信三恵子著「ルボ 雇用劣化不況」岩波新書 を読みました。人件費等、目先の利益にとらわれて従業員の雇用だけでなく、その企業の製品、サービスまでもが劣化している実態が描かれています。

《だが、最終段階の正式契約は正社員の仕事と決まっていた。稲葉さんから引き継いだ三十代の正社員の男性は、稲葉さんが信頼する建築業者から、極端に安い価格で引き受ける別の業者にすげ替え、手間賃の安い職人を使った。中古住宅は、長く使っているためゆがみができていて、既製の建具は合わないことが多い。にもかかわらず、正社員と新しい業者は、安いからと規格品を多用するプランに変えた。長く夫の設計事務所で働いてきた経験からすれば、住宅は安いことより長持ちして住みやすいことが大切だ。別の業界から転職してきたこの正社員は、安ければやすいほどサービスになり、自分の評価になると思い込んでいるのではないかと不安がつのってきた。だがパートの立場では口をはさめなかった。》

 建築設計事務所で長年働いた後にホームセンターのリフォーム部門にパートとして働き始めた女性の話です。長年の経験を活かして顧客から信頼を得て、自身も顧客に対してより良いサービスを提供しようとしているのも関わらず、パートという身分のために、経験も無く目先の数字を優先する正社員の言う通りにせざるを得ない実態が描かれています。
 従業員のノウハウの蓄積は企業にとって競争の源泉になると思います。優れたノウハウ、知恵があるのにそれを生かそうとしないのは、企業にとって目先の人件費以上に大きな損失であると思います。

《外された支店長は、約二十人。支店長が異動したあとを他の支店長が兼務する支店もあり、「人件費減らしか」と思った。部下の事務職も大幅な歩合給になり「食べていけない」と泣きつかれた。「これでは部下がかわいそうだ。士気が下がっては、売り上げは上がらない」と何度も本社に訴えたが、聞いてもらえなかった。》

 歩合制や成果給与というのは本来、売上を伸ばした分だけ上乗せの対価を支払うことで、従業員のモチベーションを上げて、お互いの競争意識を促すことにあります。しかし、この事例では売上を上げることではなく人件費を下げる口実として使われています。正社員でさえも「知恵を出して会社を支える戦力」としてではなく、「取替え可能な部品」としてしか見ていない、社員の対する見方が窺えました。

《派遣会社も、派遣工の権利や労働条件には目が向かず、効率よく工場に送り込んで働かせることの方に熱心だった。〇六年五月、池田さんは食あたりで仕事の出られなくなり、寮で寝込んだ。一日目は派遣会社の担当社員が来て、「どんな具合か」と聞いた。二日目には「いつ出られるか」と聞き、三日目には「代わりを用意するのでやめては」と言ってきた。》

 製造の現場には、長年経験を積んで行かなければ分からない問題点や、無駄が多くはびこっています。その無駄を徹底的に排除する事に成功したことでトヨタは世界的企業に成長することが出来ました。しかし、「怪我、病気になったら代わりをすぐ用意する」という考え方は現場のノウハウの蓄積が出来ないため、品質の劣化や問題点の洗い出しの蓄積が止まってしまいます。目に見える費用だけでなく、ノウハウの蓄積等の目に見えない利益、資産を失う損失にも目を向けるべきだと思います。

 渋沢栄一は《算盤を手にとって財産を得ようとすることは、決して悪いことではない。しかし、算盤の基礎を社会正義のための道徳の上に置かなければならない。》と語っています。自分の利益を得るためにはまず社会の利益に還元しなければならないという考えです。
 論語の中で《「利益を優先させると、人怨みを買うことが多い」(子曰く、「利に放りて行えば、怨み多し」)》とあるように、自分の利益ばかり手に入れようとすると人から怨まれて、結果的に自分に害を被ると説いています。
 雇用の劣化と引き換えに製品、サービスの付加価値を生み出していると当初考えていましたが、実態は雇用の劣化と共に製品、付加価値の「劣化」も引き起こしていました。目先の利益ばかりに囚われて、社会に利益を与えない企業は結局、市場から見切りをつけられてしますのではないかと思えてなりません。

竹信三恵子著「ルボ 雇用劣化不況」岩波新書
渋沢栄一・守屋洋=編訳 渋沢栄一の「論語講義」 平凡社新書





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